この一年、海外はもとより国内の旅行ですら、誰もが思う存分行けない、楽しめない窮屈な毎日が続いています。
先の見えない不安な日々を過ごし、自由に旅がしづらくなった今こそ、将来また旅したい場所を探すのもよし、行って良かった場所に想いを巡らせるもよし…。
今回は、コロナ禍の先にある「その日」に、いつかまた自由気ままに「旅」することができるようにとの想いから、ラグジュアリートラベルマガジン「CREA Traveller」との共同企画により、4人の作家さんと「CREA Traveller」の編集長に「私が“旅”を感じる本」をテーマに、お好きな本を選んでいただきました。
時にはステイホームの気分転換に、疲れた心を癒やしにホテルに出掛け、新たな「旅」への想いを胸に「おこもり読書」を楽しんでみませんか?
自分時間が増え、新しい楽しみもあるけれど、完全オフモードになるのはなかなかに難しいもの。
だからこそ、ミニマルな旅に惹かれます。ステイ先での静かな時間に、存分に読書に没頭したり、疲れたら何もしない喜びに身を委ねたり。「部屋でやりたいこと」だけを携えて、ホテルへ。
場所も荷物も厳選する、その行程を考えただけでワクワクします。
「CREA Traveller」編集長 金杉安佐子
1964年宮城県生まれ。92年「六番目の小夜子」でデビュー。2005年「夜のピクニック」で吉川英治文学新人賞と本屋大賞をダブル受賞。06年「ユージニア」で日本推理作家協会賞、07年「中庭の出来事」で山本周五郎賞を受賞。17年「蜜蜂と遠雷」第156回直木賞、第14回本屋大賞を受賞。19年「蜜蜂と遠雷」は映画化された。
古今東西の地図に精通する著者が語る地図の話は、まさに「目ウロコ」なトピックスが満載。さまざまな地図を見ているだけで、旅した気分になれます。
OL時代、通勤途中で駅に貼られている「いいちこ」のポスターを見て、何度「このままどこかに行ってしまいたい」と思ったことか。最高に旅情をそそるポスター集。
1958年東京都生まれ。94年、デビュー作「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞受賞。96年に「蛇を踏む」で第115回芥川賞を受賞。99年には、同「神様」でBunkamuraドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞を受賞、また「溺レる」で伊藤整文学賞、女流文学賞受賞。2001年には、「センセイの鞄」で第37回谷崎潤一郎賞受賞。
日本のすべての島についての、詳細な解説書。一昨年、十五年ぶりに新版が刊行されました。1712頁の中に、島の地図、面積・世帯数・産業・行政・交通などの便覧、また、島のみどころ、方言、島おこしなどあらゆることがぎっしりと密に書かれています。「すべてを見渡す」ことのできる紙の本ならではの喜びが、あふれています。
日本で一番有名な紀行文といえば、本書ではないでしょうか。現代語訳もありますが、訳注のついた原文で、ゆっくりと読むのが楽しい。訪れた場所についての短い散文と、俳句。短いからこそ、読み飛ばしたくないのです。私自身も俳句をつくるので、おくのほそ道のいくつもの場所に行ったことがありますが、今も遊山の場所である場合もあれば、ごくふつうの住宅街である場合もあり、どちらもおもむき深いです。
ノンフィクション作家、探検家。1976年北海道生まれ。早稲田大学卒、同大探検部OB。2016年12月から太陽の昇らない暗闇の北極圏を80日にわたり一人で探検。その体験を綴った「極夜行」で18年、本屋大賞ノンフィクション本大賞と大佛次郎賞を受賞。近著に「極夜行前」、「そこにある山-結婚と冒険について」がある。
グリーンランドの猟師村に住みこみ犬橇技術を習得した物語。自分で犬橇をはじめてこの本を読み直すことで、植村直己の冒険家としての資質の高さが痛いほどよくわかった。
数ある高野本のなかでももっともぶっ飛んでいるのが本書。ケシの栽培地として有名なゴールデントライアングルに潜入し、自らアヘン中毒患者となるという現代における探検旅行記の決定版。
川上弘美さん
角幡唯介さん
お二人の選書
(川上さん)
明治時代、仏教の原典を求めるために、当時鎖国していたチベットへと旅した僧河口慧海の、旅の記。前半の旅の部分、そして後半のチベットに入ってからの習俗の記述部分、どちらも巻をおくことあたわずの面白さ。困難で求道的な旅なのに、その語り口の軽妙さが、なんともいえない味となっています。
(角幡さん)
当時鎖国下にあったチベットに仏典入手のために潜入した探検界のレジェンド慧海。学生時代にこの本に影響されたことで、私もまた単独でチベットに潜りこみ探検しようと決意した。
1954年、山梨県生まれ。82年エッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」が大ベストセラーに。86年「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞を、95年「白蓮れんれん」で柴田錬三郎賞を、98年「みんなの秘密」で吉川英治文学賞、2013年「アスクレピオスの愛人」で島清恋愛文学賞、20年、菊池寛賞を受賞。そのほかの著書に「不機嫌な果実」、「野心のすすめ」、「出好き、ネコ好き、私好き」、「大原御幸 帯に生きた家族の物語」など多数。
知の巨人が旅をすると、こういう風になるという本。次々と歴史の知識が溢れ出て本当に面白い。全シリーズ持っています。昔はどこかに行く時、必ず持っていきました。
私も大好きな台湾を、乃南さんもお気に入りだったんですね。現代の人気作家が描く台湾は、さらにキラキラしています。
昭和十三年に刊行されたもの。兄弟二人がお父さんと一緒に旧満州を旅します。当時の日本人が、アジアをどう見ていたかがわかって非常に興味深いです。
ツップフクーヘン、ドボシュトルタ、セラデューラー―店主が世界各地に旅しては作り出す料理やスイーツが新しい視点を投げかけ、そこに集う人々が抱える日常の諸問題を解きほぐしていく……。謎解き仕立ての連作短編は軽やかで、食べ物描写が鼻腔をくすぐります。世界は知らないものだらけ、だからこそ、旅をしたくなります。
弟が暮らすグアテマラへ。鋭い感性とおおらかで豊かな言葉が、馴染みが薄いはずの中米の国の様子をまざまざと浮かび上がらせ、笑いと旅情を誘います。ゆったりとした空気、少し怠惰な喧噪、異国の匂いに包まれながら、料理上手な義妹の作る料理を食べてみたい……。
五足の靴五人づれ 著
明治時代、雑誌『明星』のもとに集まった北原白秋、木下杢太郎ら若き詩人がつづった紀行文集。今読んでもとてもみずみずしく、短編小説のような味わい。